母に競馬場につれて行かれたのは小学校3年のときだった。妹はまだ4歳くらいで、幼稚園に行っていた気がする。確かその頃父は出張が多く、その日も東北に行っていた。
朝起きると母が「競馬でも行っちゃう?」とわたし達を誘った。遊園地ならともかく、競馬場?と思ったけれど、子供ながらに気を使ってはしゃぐ振りをした。たぶん妹も。
その頃の父は出張が多かったが、それが本当かどうかは疑わしかった。夫婦仲はいいように見えなかったし、子供の勘でなんとなく悟った。父は賭け事を嫌った。競馬場に行こう、というのは母のささやかな反抗だったのではないだろうか。
自分を裏切っておいて、家の中で平然としている夫の嫌いな事をすることで気を晴らしていたのかもしれない。わたし達は何度か競馬場に連れて行かれたが、母は大金を賭ける事はほとんどなかった。
ただ、優しい目で馬を見ていた。もしかしたら馬を見て心を休めていたのかもしれない。わたしもまた馬を見に行きたくなった。
